ココジカ

サンウッドより、暮らしを豊かにするウェブマガジンをお届けします。

Produced bySunwood

日本のワインはここまで変わった!
“純国産”日本ワイン入門

Vol.31 / 2014, 05

酒屋に行けば世界中の銘柄ワインが容易に手に入りますが、あえて日本産を手にとったことはありますか?手に取っていただくと、きっと近年、日本ワインがとてもおいしくなっていると気づくはず。いったい何が変わってきているのでしょうか?
国内外のワインコンクールで最多の入賞を果たし、日本ワインの品質向上を牽引しているワイナリー「シャトー・メルシャン」にお話を伺いました。世界と肩を並べるまでになった「日本ワイン」の苦難の道のりと、今オススメの1本をご紹介します。

SUNWOOD CLUB MAIL MAGAZINE Vol.31

Part1 リアルタイムに動いている日本ワイン...

シャトー・メルシャン トーキョー・ゲスト・バル マネジャー/シニアソムリエ 三井伸一郎氏
<お話を伺った方>
シャトー・メルシャン トーキョー・ゲスト・バル
マネジャー/シニアソムリエ 三井伸一郎氏

●無理して伝統国を真似しない、
「テロワール」を理解し始めた日本

この約10年、日本ワイン界が活性化しています。味や香りが向上しているというだけでなく、日本の風土に合った栽培・醸造技術を高め、それぞれの畑の個性を反映させたワイン造りへの積極的な取り組みが始まっています。特にブドウ栽培とワイン醸造に一貫して取り組もうとするワイナリーが増え、「世界に通用する日本ワインを地域から生み出そう」という熱気に溢れているようです。

日本ではもともとブドウを果物として食用する歴史が長く、日本固有のブドウ品種「甲州」などは発見から約千年もの歴史を持ちます。明治初期に始まった日本でのワインづくりも、ナイアガラ、コンコード、デラウェア、巨峰など生食用やジュース用を兼ねたブドウからスタートしました。 生食ブドウの甘さを感じさせる「甘味ブドウ酒」は当時の日本人の味覚に合い、大人気を博します。それは日本独自の果実酒文化から生まれた、甘味料や香料を加えた"ブドウ酒"であり、本来のテーブルワインとは別のものでした。この傾向は昭和の中頃まで続きました。

甘味料や香料を加えずにつくる本格ワインが、甘味ブドウ酒を消費量において逆転するのは、1975(昭和50)年になってからのことです。オリンピックや万博を経て生活様式の西洋化が急激に進み、ワインの需要量も増加。第一次ワインブーム(1972年頃)が起こります。

ブドウ生産地も大きな岐路に立たされました。それまでの常識では、乾燥した気候を好む欧州系品種は、雨が多い日本では栽培が難しいとされ、畑の仕立て型も違っていました。気候も土壌も違う日本で、果たしてうまく育つのか?悩みながらも、長野県桔梗ヶ原では1976(昭和51)年、それまで栽培されていた甘味ブドウ酒用の原料「コンコード」から欧州系品種への植え替えを決断します。寒冷地では難しいとされていたボルドーの赤ワイン品種として知られている「メルロー」に挑戦し、地道な栽培研究を重ね、その技術をもとにメルロー、シャルドネなど欧州系品種を徐々に拡大させていきました。

日本で伝統的に行われてきた「棚式」。土から離して冷気や湿気を防ぐためでもあった
日本で伝統的に行われてきた「棚式」。
土から離して冷気や湿気を防ぐためでもあった
フランスと同じ「垣根式」。樹一本当たりの収量を少なくし、より充実した粒を目指す
フランスと同じ「垣根式」。
樹一本当たりの収量を少なくし、より充実した粒を目指す

桔梗ヶ原のメルローは、1989(平成1)年にようやく初出荷の日を迎えます。その土地に合ったブドウを選定し、植え替えて、ワインとしての真価を発揮できるようになるまで10余年という道のりを経た「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー1985」は、リュブリアーナ国際ワインコンクールでグランド・ゴールド・メダルを受賞。日本でワイン造りが始まってから約100年後、世界と肩を並べるワインの仲間入りを果たした記念すべき出来事でした。

桔梗ヶ原メルロー

■桔梗ヶ原メルロー
日本を代表する赤ワインの一つとして評価される「桔梗ヶ原メルロー」。華やかな香りが時間とともに広がり、繊細な味わいの中に厚みと力強さを感じさせるワインです。

これと並行して1984(昭和59)年、シャトー・メルシャンは自社農園「城の平ヴィンヤード(勝沼)」で、カベルネ・ソーヴィニヨンの垣根式栽培に着手します。日本で欧州系品種を栽培するためのさまざまな研究を先行して行い、その成果を契約栽培農家にフィードバックするという地道な活動を重ねていきました。「シャトー・メルシャン 城の平カベルネ・ソーヴィニヨン1990」は1997(平成9)年、本場ボルドーの国際ワインチャレンジで日本ワイン初の金賞を受賞しました。

コラム1

● シャトー・メルシャンのルーツは日本初の民間ワイン醸造会社

1877(明治10)年に山梨県勝沼に誕生した日本初の民間ワイン醸造会社「大日本山梨葡萄酒会社」は、フランスに2人の若者を留学させ、ワイン製造技術を学ばせました。しかし折からの不況と、当時人気の甘味ブドウ酒の前に本格ワインは苦戦を強いられ、1886(明治19)年に解散してしまいます。その後、大日本山梨葡萄酒会社の発起人のひとり宮崎市左衛門の長男・宮崎光太郎が醸造設備や営業権を譲り受け、本格ワインの醸造を継続。生涯、ワインの醸造と普及に尽くしました。光太郎が1904(明治37)年に作った第二醸造所は現存し、現在は「シャトー・メルシャン ワイン資料館」となっています。また光太郎の私邸も修復され、経済産業省認定の近代産業遺産「宮光園」として公開されています。

宮崎第二醸造所
宮崎第二醸造所

http://www.kirin.co.jp/entertainment/winediscovery/history/japan.html

●「甲州」の香りを大発見

甲州ブドウの定点観測をおこない、最適な収穫日を計る。
甲州ブドウの定点観測をおこない、最適な収穫日を計る。

一方白ワインの分野では、2003年、ボルドー第二大学の富永敬俊博士との共同研究により、日本固有品種の「甲州」にもソービニヨン・ブランと同じ豊かな香り成分(チオール化合物3MH)が存在することを世界で初めて発見。栽培と醸造で3MHを最大限に高める方法を開発し、「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香2004」を発表しました。「きいろ香」は、それまで淡泊という印象だった甲州ワインのイメージを一変させる爽やかな柑橘系の香りを放ち、世界のワイン関係者を驚かせました。

甲州きいろ香

■甲州きいろ香
あふれる柑橘果実様の香りとフレッシュな酸とのハーモニー。甲州ワインというジャンルにおいて全く新しいスタイルを生み出したワインです。

●日本らしい繊細さ「フィネス&エレガンス」のワイン造りの時代へ

樽育成中もワインの様子を気にかける。
樽育成中もワインの様子を気にかける。

1998年からは、ポール・ポンタリエ氏(シャトー・マルゴーのディレクター)を醸造アドバイザーとして招聘しています。ポンタリエ氏は、ヨーロッパワインの模倣ではなく、その土地土地のテロワールの重要性を説きます。
「ワインは、収穫時点のブドウのポテンシャル次第」というポンタリエ氏のアドバイスのもと、2003年より自社管理栽培畑「椀子(マリコ)ヴィンヤード」を開園し、最高品質のワイン造りを目指した研究開発を開始しています。
2003年~2009年に植樹され、当時から他の産地にはないニュアンスや力強さがあったといいます。今では世界で高い評価を受けるワインもうみ出しています。今後「椀子(マリコ)ヴィンヤード」から生まれてくるプレミアムワインに注目です。

コラム2

● 国産ワインと日本ワインの違い

以前は「輸入ワイン」に対して「国産ワイン」という言葉があるだけでした。法律的には海外から輸入したブドウやブドウ果汁やワインを原料として日本で醸造したり、ブレンドしたものも「国産ワイン」と呼ぶことができるため、純粋に日本産ブドウ100%で造られたワインを「日本ワイン」と呼んで区別しようと、2003年に弁護士であり「日本ワインを愛する会」会長の山本博氏が発案したものです。
ちなみに日本でのワイン消費量のうち「日本ワイン」が占める割合はわずか2%、「国産ワイン」が30%、そのほかはすべて輸入ワイン。量から見ても日本ワインはまだまだ希少価値の高いものです。

※掲載の情報は発行月時点の情報であり、現在とは異なる可能性があります。